
高気密高断熱住宅の性能を活かすポイントは、エアコンのつけっぱなしです。
一般的な「こまめなオンオフ」や「各部屋への設置」は、高性能住宅ではかえって効率を悪くする場合があります。
この記事では、省エネで理想の環境を維持するために必要な、数値基準と効率的な運用ルールを解説します。
新築を計画中の方や、光熱費を抑えつつ快適に暮らしたい方は、ぜひ参考にしてください。
| このコラムのポイント |
|---|
| ・高気密高断熱住宅のエアコンは、こまめな操作より「つけっぱなし」が省エネです。 ・高性能な断熱・気密と空気循環の工夫により、エアコン1台でも全館空調できます。 ・サーキュレーターや加湿器を併用し、温度ムラと乾燥を防ぎましょう。 |
Contents
高気密高断熱住宅とは

高気密高断熱住宅とは、家の隙間を極力減らし、高性能な断熱材で家全体を包み込んだ住まいのことです。
外気の影響を受けにくく、室内の快適な温度を保ちやすい点が特徴です。
【高気密高断熱住宅のメリット】
- ・家中の温度差が少なく、冬場でも廊下や脱衣所が寒くないので快適に暮らせる
- ・部屋間の急激な温度変化を抑え、ヒートショックのリスクを軽減する
- ・隙間が少ない構造によって効率よく換気でき、新鮮な空気質を維持しやすい
- ・無駄なエネルギーを使わずに済み、冷暖房費などの光熱費を削減できて経済的
- ・補助金や税制優遇の対象になる
- ・気密性が高いため防音性が高まり、車の音など外部の騒音が聞こえにくくなる
【高気密高断熱住宅のデメリット】
- ・日差し対策を怠ると熱が逃げにくくなり、夏場は熱がこもりやすい
- ・換気システムを止めると、ニオイや汚れた空気がこもる
- ・密閉度が高く、家の中の生活音が響きやすくなる場合がある
- ・一般的な住宅より建築費用が高くなる傾向がある
- ・冬場にエアコンを使用すると湿度が下がり、室内が乾燥しやすくなる
高気密高断熱住宅にはメリットだけでなくデメリットもあるため、「そこまでの性能は本当に必要なの?」と迷われる方もいらっしゃいます。
以下の記事では、不要論が出る理由と、後悔しないための判断基準について解説しています。
〈関連コラム〉高気密高断熱は必要ない?”いらない”派の5つの理由と後悔しないポイントを解説
設計すれば高気密高断熱住宅はエアコン1台で快適

一定の条件を満たした適切な設計を行えば、エアコンは1台でも十分です。
各部屋を細かく区切るのではなく、空気が循環する仕組み作りが欠かせません。
性能と間取りの両面からアプローチすることで、全館空調が実現します。
どのような条件が必要なのか、具体的に確認していきましょう。
エアコン1台で家全体を快適に保つための条件
エアコン1台で家中を快適にするには、以下の4つの条件を整えます。
- ・高い断熱性と気密性:断熱性能(Ua値)はHEAT20のG2グレード、気密性能(C値)は実測で1.0以下(理想は0.5以下)が目安
- ・第一種熱交換換気の採用:室内の熱を回収しながら空気を入れ替える換気システムで、室温変化を抑える
- ・夏の日射遮蔽:窓の外側にすだれやシェードを設置し、太陽の熱を室内に入れない工夫
- ・空気が循環する間取り:吹き抜けやリビング階段などを設け、空気が家全体を循環するよう設計
エアコンの効率を上げるだけでなく、開放的な空間もつくれる「吹き抜け」のデザインや設計ポイントについては、こちらをごらんください。
〈関連コラム〉吹き抜けの梁を見せるメリット・デメリットとは?施工事例や設計のポイントも解説
エアコン1台では難しい場合
建物の形状や大きさによっては1台での空調が難しいケースもあります。
必要に応じてエアコンを複数設置することも検討しましょう。
- ・延床面積が広い家:エアコンの風が隅々まで届かない
- ・複雑な形状(L字型など):空気が滞留しやすく、温度ムラができる
- ・3階建ての住宅:暖かい空気は上へ、冷たい空気は下へ溜まり、上下差が広がる
高気密高断熱住宅に適したエアコンの選び方

高気密高断熱住宅は性能が高いため、一般的な住宅よりも冷暖房に必要なパワーは少なくて済みます。
家電量販店でよく見かける「〇畳用」といった表示よりも、やや小さめの容量の機種を選んでも問題ありません。
畳数表示は、1964年に制定された「無断熱の住宅」を基準にしています。
現在の高性能住宅とは前提が異なるため、以下の理由から小さめのモデルがおすすめです。
- ・頻繁なオン・オフを防げる:パワーが強いため、すぐに設定温度に達して停止・再開を繰り返す「断続運転」で、電力消費が多くなる
- ・初期費用の削減:必要十分な機能のモデルを選ぶことで、購入コストを抑えられる
- ・除湿効率の向上:夏場は低負荷で長く運転し続けるほうが、除湿効果が高まる
高気密高断熱住宅の効率的なエアコン設置場所

エアコンの性能を活かすには、設置場所も慎重に選ぶ必要があります。
基本は「空気を家全体に送れる場所」です。
以下は設置場所を選ぶ際のポイントです。
- ・障害物がないか:家具や壁が風を遮ると、空気がその場に滞留してしまう
- ・家の中心に近いか:各部屋へ均等に空気を送るため、家の中心や吹き抜けの上部などが適している
- ・換気口と離れているか:適温にした空気がそのまま排出されたり、気流が乱れたりする
換気計画と空調計画はセットで考え、お互いが干渉しない位置を選定しましょう。
高気密高断熱住宅でのエアコンの効果的な使い方

毎日の暮らしですぐに取り組める、効果的な運用ポイントを4つ紹介します。
エアコンは基本的に「つけっぱなし」運転が効果的
高気密高断熱住宅は一度適温になると、魔法瓶のように温度を保ちやすい点が特徴です。
エアコンが多くの電力を使うのは、運転を開始して設定温度にするまでの「立ち上がり」です。
頻繁にオンとオフを繰り返すと、室温が変動するたびにフルパワーで稼働することになり、かえって電気代がかさみます。
こまめに切るよりも、連続して「つけっぱなし」で運転するほうが経済的です。
シーリングファンやサーキュレーターの併用
暖かい空気は天井付近に、冷たい空気は床付近に溜まる性質があります。
温度ムラを解消するために、シーリングファンやサーキュレーターを活用し空気を循環させましょう。
夏場の冷房時は、冷たい空気が床付近に溜まりやすいため、風を床に向けて送ると効果的です。
24時間換気システムは止めない
快適な空気環境を守るため、24時間換気システムは常に稼働させます。
換気を止めると、以下のリスクが発生します。
- ・湿気や二酸化炭素が排出されず、空気が汚れる
- ・シックハウス症候群(※)の原因物質が室内に留まる
- ・結露が発生しやすくなる
※シックハウス症候群:建材や家具などから発生する化学物質が原因で、頭痛やめまいなどの体調不良を引き起こすこと。
エアコンの効率を維持するために、2週間に一度を目安にフィルター掃除を行いましょう。
また、気密性が高い家では、換気計画を誤ると湿気が逃げずにこもる場合があります。
隙間がないことによる湿度のメカニズムと、適切な湿気対策については以下の記事が参考になります。
〈関連コラム〉高気密高断熱の住宅の湿度が下がらないのは「隙間がない」から|湿気対策や快適な湿度を保つ設計も解説
冬は乾燥に注意
気密性が高い住宅で冬場に暖房を使うと、室内の空気が乾燥しやすくなります。
湿度が低すぎると、喉の痛みを感じたり、ウイルスの活動が活発になったりします。
健康を守るためにも、加湿器を使って湿度40%から60%を目安に保つよう心がけてください。
給水の手間が少ない大容量の加湿器や、加湿機能が付いたエアコンもおすすめです。
まとめ
高気密高断熱住宅におけるエアコンの活用法について解説しました。
「つけっぱなし」を基本に、サーキュレーターや加湿を組み合わせる工夫を取り入れましょう。
これからの家づくりにおいて、空調計画は間取りと同じくらい優先すべき事項です。
信頼できる工務店に相談することで、一年中心地よいマイホームが実現します。
高気密高断熱住宅の空調計画で迷ったときは、神奈川県を中心に一都三県でさまざまな住まいづくりをお手伝いしてきた「矢島建設工業」にお気軽にご相談ください。



